暑中お見舞いなのだ！

砂塵と共に熱い風が舞い上がり
白羊宮から一気に双魚宮まで吹き昇る時
うねる様な、低く耳を掠める音も少し遅れて駆け上る。

見上げれば青い空に白い雲。

その大きな宙のキャンバスに描かれた一幅の絵の様に
浮かび上がる十二宮は静かに地上を見下ろしている。




パンパンパンッと大きな音が響いてくる。
これは獅子宮辺りからか？
さっきまで蠍座と拳を合わせて鍛錬していた筈だから
汗ばんだ上着を洗濯でもして干しているのだろうか？

暫くすると･･･
１つ上の乙女宮から何やら獅子宮に飛び込んだ。

「イテッ！！！」

シャカが煩さの余りリアに数珠玉を投げたのだろう。
仲が良いのか悪いのか解り難い様な、解り易い様な幼馴染だ。




その上の天蠍宮は朝から全く主の気配がない。
もう少し上の双魚宮に何やら不穏な小宇宙が３～４つあるようだから
恐らくその中に紛れ込んでいるに違いない。
双魚宮に集まっているのはいつも同じ顔ぶれ。

宮の主であるアフロディーテと仲良し３人組のデスマスク・シュラ。
今日はその中にミロとカノンも混じっているようだ。
５人はアフロディーテ自慢の薔薇園で宴会の真っ最中。

ギリシャの白い酒と色彩豊かな果物と幾つかに割いた肉と魚が
薔薇園に引っ張り出したテーブルの上に山の様に乗っかっている。
それを囲む５人はそれぞれにドヤ顔で何やら談笑中。
また悪さでも考え付いて、決行計画を立てているんだろう。

そこへ下から紅い髪の男が静かに昇って行く。
彼の意志で奴らの仲間に入るのは珍しいから･･･
概ね、ミロかカノンが呼び出したのだろう。
心なしか足取りが重い様な気がする。


目線を少しばかり下に向ければ･･･
牡牛宮でムウとアルデバランが百日紅の赤い花を見上げながら
何やら嬉しそうに話しこんでいる。
ムウがあんな顔をするのはアルデバランと居る時か･･･
弟子の貴鬼や師匠のシオンと居る時くらいだ。
穏やかで柔らかい笑顔は遠目には柔和で美しいのだが。

アルデバランも何をどう間違ったか･･･ムウには逆らわないようだ。
や、それも処世術か･･･。



そんな訳で。

暑い暑い聖域の夏も例の黄金聖闘士たちはそれなりに居なしているようだ。
一頃、アテナが「聖闘士はただでさえ暑苦しいのだから！
もう少し聖衣を涼しくしなさい！」とか仰って。
一様に聖衣のアンダーを網タイツにして下さったことがあったが。

アレは･･･やはり怪し過ぎだった。
何とか似合っていたのはアフロとカミュと･･･シャカも中々美脚だったな。
ムウなどは目線を這わせただけでいきなり張り手して来おった。
綺麗な足だったのに･･･勿体無い。


逆にありゃ犯罪一歩手前だったのは･･･
言うに及ばず、ミロ・カノン・デス・シュラだ。
アルデバランに至っては最早何も語れまい。
と言うか思い出すのもエライ事だ。

アイオリア･･･我が弟はまあ、似合わない事もない。
有り得ないとは思いつつも･･･やはり身内は可愛いものだ。
中々チャーミングであったな。
ミロと脛毛の長さを競っているのはどうかと思ったが。


ともあれ。

網タイツ聖衣は辞めて頂きたい。
私もチョットあれだ。似合うかも知れないがこっ恥ずかしい。
サガなど恥ずかしさの余り真っ黒になっていた。

色々と聖闘士も年頃の男子だけに問題があるのだから。
アテナもその辺り察して下さるとありがたいのだが。


さて･･･今夏のアテナのご命令もな。
どうしたものか･･･。

さりとて無下にする訳にもいかぬし、まして無視は出来ぬし。
かと言って、そのまま受け入れてしまっては･･･
聖域一強い黄金聖闘士としてのプライドが･･･。

早く夏が終わって欲しいものだ。





「アイオロス！
今夏も大変暑いです。あなた方聖闘士もさぞかし暑いでしょう？
昨夏の聖衣に網タイツは若干変態っぽかったので
今夏はもう少し手直しをしてみました♪これを･･･
セーラー服を皆で装着するのです！
海の男たちが着衣するのですから暑苦しくはない筈！
アンダーはスカパンで所謂半ズボンですから涼しいですよ♪
解りましたね？アイオロスッ！！！」



「はっ！」



セーラー服１２着。
しかも、アンダーはスカパンだ。
ご丁寧に１２名分１２色に分かれている。


誰に桃色セーラーなど着ろと言うのだ！！！


桃レンジャーか！


アミダくじで俺に当たったらどうしてくれよう。


あああああああああああ･･･頭が痛いっっ！！！






こうしてアイオロスにとっても黄金聖闘士にとっても
痛い夏は始まったばかりだった。



ちーーーーーーーーーーーーーーーーんっ。